プロローグ


「だいじょうぶ?」
別れを告げた私に、彼は電話のむこうでそう言った。
この人は、なぜ私の心配をしてくれるんだろう。。。

嫌いになったわけじゃない。
ただ、不安だった。
彼で、いいんだろうか。。。

『娘婿と酒を飲む』晩酌を欠かさない父の夢だと聞かされた。
この、ちいさな夢をかなえてあげたかった。
でも、なぜだろう。
出会ったのは、まったく酒を飲めない人だった。

一人になった日。
主人を失ったぬいぐるみみたい。
くたっとなったまま、動けなかった。
今まで感じたことのない無力感。
これが、心に穴が開いてしまったというのだろう。
不安を取り除いたつもりだったのに。
何度も何度も問いかけた。
よかったの?これで・・・

ぐぅ〜〜〜〜。
どんなにくたっとなってても、腹の虫は鳴くものだ。
そうだ。
何か食べれば、元気も出るかもしれない。
なにげなくあけた冷凍庫に、彼からの最後のプレゼントがちょこんと座っていた。
私のお気に入りのアイス。
「だいじょうぶ?」
彼の声が聞こえた気がした。

譲れない仕事や、大好きな友達や、大切な家族よりも。
大事なもの、見つけた。

気づいたら、携帯を手にしていた。
「もしもし?」
彼の声が、聞こえる。


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